肉筆浮世絵名品展~歌麿・北斎・応為~@太田記念美術館
行った日:2020/1/25
★★★☆☆
本日のBest:葛飾応為 「吉原格子先之図」
感想
東京に行く用事があり、週末だけだったのでぎちぎちに予定を入れた内の一つ。
前回訪問した時にそんなに大きな美術館でなかったと記憶していたので、4時半頃に訪問した。
他の展覧会とも迷ったけれども、丁度、朝井まかての『眩』を読み終わったところだったうえに、葛飾応為の「吉原格子先之図」はめったに出ないというので、これはなんというめぐりあわせなんだ!といささか興奮しながら行った。
それにしても、美術館自体は好きなのだが、原宿にあるというのがなんとも…
田舎者の非おしゃれで若者でない者からすると、正直、やめてくれぇ~~の境地。
展覧会を満喫して出てきた時の、現実世界とのギャップの大きさよ。すぐに順応できないくらいだよ…
何はともあれ、展覧会自体は楽しく鑑賞できました。
印象的だった作品
残念ながら図録や、気に入った作品の絵葉書がなかったので絵は割愛。
葛飾北斎「雨中の虎」
油絵のようなまったりと濃い色調。
まぁ現代風に表現するとしたら、インスタでいうとX-Pro IIのフィルターのような、彩度を上げつつも明度はそんなに上がっていない感じ。
虎の模様が濃くにじんでいる感じで、それが雨の中にいるみたいになっている。
ただし、虎が全然虎ではなくて可愛い。
葛飾応為「吉原格子先之図」
想像よりも小さい。
こちらも色が濃く、色の濃さのせいか、その小ささがぎゅっと凝縮したように見える。
光が黄色っぽいというよりも、赤や朱を帯びているせいか、にぎやかな雰囲気を感じる。
遊女たちの顔が、よく見ると描かれているのだけれども、判別できないくらい薄いので、色による光と影の世界が引き立っている。
見る人たちのポーズもなかなかかっこいい。
芸が細かいなとおもったのが、格子の影の付け方も、グラデーションのようになっていること。
虎と並べると、娘の方が勝ちだな。
岩佐又兵衛「小町図」
奇想の系譜展でも岩佐又兵衛の墨絵を見たけれども、同じく水墨画というよりも、墨で色塗りをしたかのような絵。
白黒写真を彷彿させられるのは、グレースケールがシステマチックに見えるからだろうか。
宮川長春「美人立姿図」
顔はまったく好みではないが、デフォルメされた身体の形と色合いが素敵。
上半身にボリュームがあり、そこから流れていく感じが、かっこいい美人に感じる。
ファッションが素敵なのが、一番上が地味な茶色に細かい花があしらわれており、襟元と足許に見える、その下に着ている着物が真赤で大き目の白い花があしらわれている。足許で着物の裏地が見えているのだが、それが水色だったり浅葱色だったりして、全体的な色の組み合わせがいいなと思った。
宮川春水「桜下遊女と禿姿」
こちらも着物が素敵。特に禿。ということで忘れないように描いた↓
着物は黒字に海老茶色の格子。袖口は赤色でアクセント。帯が水色と白のチェック柄。
可愛いけれどもかっこよさも入っている。素敵。
因みに、絵を描いて説明すべきかなと思うものを、その場で簡単なスケッチをしていたので、もう少しちゃんと描き直そうかなと思っていて、1枚で挫折しました。
勝川春章「桜下詠歌の図」
面白い趣向になっている作品。
前髪落ちてない、推定美男子な若者が、短冊と筆を持って和歌を詠もうとしているのを、お尻をまくりあげた下男(多分)が硯を掲げている。そのお尻がぷりんとしているのがおかしい。
更に、その二人の後ろに垂れ幕が張ってあって、そこからわさわさ女性たちが美男子をのぞいている、という図になっている。
女性たちの顔が色んな系統であるうえに、幕がところどころ穴みたいのがあいていて、そこから女性の着物の柄が見えているのも、なかなか芸が細かい。
うら若き男性というところに、このわらわら具合が納得いかないのだが、今でいったらジャニーズを愛でるようなものなのかなと思うと微笑ましい。
勝川春章「子猫に美人図」
女性が帯を結ぼうとしているところを、子猫がじゃれついているのを描く。
単純に猫が可愛い。
人間の顔は、THE浮世絵的な顔、つまりシンプルな顔立ちだけれども、猫がなかなかリアル。アンバランスに見えないのは、着物や帯の柄が緻密だから、猫の描き込みが浮いて見えないからなのかなと思った。
鍬形蕙斎「桜花遊宴図」
構図がなかなか面白い。桜の木が左の中央くらいから右上ににゅーっと伸び上がっている。木の途中から垂れ幕が右下の方への画面を仕切っていて、この二つで大きな「く」の字を書いているように見える。
木のにゅーっという感じで、桜の木の立派さが表れている気がする。
正直、人物たちはまったく好みではなかったので、構図が面白い絵として印象深い絵。
喜多川月麿「美人花見の図」
複数の女性が出ているが、まったく美人ではない。
が、この絵の素敵なところが、めちゃくちゃ声が聞えてくること。
花見に向かう女性たちのかしましさ、「知ってた!?」「まじで!?」という声が聞えてきそうな。更に画面右側には、女性たちよりも奥まったところに、母親と母親にじゃれつく子供がいる。その二人の声も聞こえてきそうで、母親が「も~ちゃんとして!」と言っているようで愉快だった。
窪俊満「雪梅二美人図」
梅とあるけれども、どちらかというと、二人の女性が見ている水仙の方が存在感ある。
雪の中で女性二人が、一人がしゃがんで立っている女性を見上げており、二人して雪から守っている水仙のことが気がかりな様子。
二人の肌、下駄の鼻緒、水仙にのみ彩色が施されていて、あとはにじみも使われた水墨画。一部だけ彩色していることで、禁欲的な色使いをしているように見えて、しっとりと上品な仕上がりになっている。
渓斎英泉「女三題」
小説「眩」で割と重要な役どころだったので、ちょっと興奮した。
一人ずつ描いた色紙を貼り合わせたような趣向になっている。
右から、丸い中に娘が琴爪を付けており、四角い中に御殿女中が扇子を持っており、ハートのような形の中に芸妓が盃を持っている。
因みにそれぞれに讃があり、右端の娘には山東京伝の讃があったのも、「眩」を読んだ身としては”ひゃ~”となった。
英泉の描く女性はなかなか色気があって、特に芸妓は後れ毛のせいか色っぽかった。
多分、眼の上線が濃いので、まつげが濃いように見えるからだろう。
歌川国芳・歌川国英「浴後美人図」
今日のBestに悩んだもののうち1つ。
浴衣を片肌脱いだ形でまとった女性がすっくと立ち、画面右上にある釣忍にとまる燕を観ている。
湯の後のにおいたつような色気みたいなものが感じられてて、しかもそれが卑猥というよりも粋な感じ。すくっと立ちつつも、浴衣からちらっと見える赤がアクセントとなっているからか。
とりあえず江戸っ子のかっこよさを感じる。
歌川広重「橋下屋根舟の女」
にじみを効果的に使った墨絵。
屋根舟に立つ女性の、髪にかける布のみ赤が使われていて、そのアクセントのおかげで絵が締まって見える。
こちらも本日のBestか迷った作品。
下から吹き上げる雪風の中、子供二人を連れ、幼児を抱えた常盤御前を描く。
過酷な状況だけれども美しさを感じる。
線が濃くないので、頼りなさをも感じる。
手前の子供が、手に息を吹きかけているのが何ともいじらしい。
小林清親「開化之東京両国橋之図」
ホイッスラーの絵のよう。もしくは逆か。
構図がかっこいい。ただ、これが最初なのか分からないけれども、ホイッスラーだけでなく、例えば現代の手ぬぐいとかでもこの構図を見るので、目新しさはない。ただ「やっぱりかっこいいな~」という感じ。
地がにじみのグラデーションになっているのはきれい。
また、光だけ絵具で盛り上げているのも効果的。ただ乗せるだけでは、色が沈んでしまうところを、ぱきっとなって光の強さを感じる。
ちらしと作品一覧