がらくたにっき

美術館・展覧会の鑑賞記録日記

カラヴァッジョ@あべのハルカス美術館

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行った日:2020/2/11

★★★★★

本日のBest:カラヴァッジョ『執筆する聖ヒエロニムス』

 感想

阿倍野での用事が一瞬で終わってしまい、遠路はるばる阿倍野まで来たのに感が募り。

行く前からハルカス美術館でカラヴァッジョ展をやっているのは知っていたけれども、あまりカラヴァッジョ、好きじゃないしな~と思って行くつもりはなかったものの、結局行くことにした。

 

結論から言うと…行って良かった!!!!

カラヴァッジョを見直した!本当にすごかったんだね!!!と思うくらい(何様って感じだけれども)。

阿倍野の用事がなければ行くこともなかったかと思うと、その縁が尊く感じる(おおげさ)。

カラヴァッジョを割と避けてたのに図録まで買ってしまった。

(本当はベドゥーサのトートバックも欲しかったけれども、大阪では展示してなかったので、展示してないものを買うなんて、という謎の信条により諦めたのを地味に後悔している)

 

今までのカラヴァッジョがあんまりだったのは、カラヴァッジョと人間の美醜のタイプが異なっていたからかもしれない。

今回はモデルが結構良かったのも満足度が高かった理由の一つかと。

 

カラヴァッジョの作品は、光と影の強いコントラストで、描かれている場面をドラマチックにするというのが特徴的だけれども、全体的に下気味な構図も特徴なのかなと思った。

背景が黒なのも相まって、何となく静物画のような印象も受ける。

だからこそ、光と影のコントラストがどぎつくても、なんとなく安定感が感じられるのだと思った。もしこれが、構図も広がりを見せていたり、もっと上まで伸びていたら、ドラマチックだけれども静謐、という雰囲気が出せなかったような気がした。

もしくは、構図が安定的だからこそ、光と影のドラマチックさが際立って見えるのかもしれない。

 

カラヴァッジョの絵に触発されて、光と影のコントラストを使う画家たちが出てきたのだが、そういうカラヴァッジェスキ(カラヴァッジョ派)の作品と比べると、カラヴァッジョがただ光と影をドラマチックにしただけではなく、色も巧みに使ってドラマチックさを作っていたのかも分かる。

あまりカラヴァッジョは中間色を使うことなく、赤、白といったはっきりとした色を使って、画面にアクセントを加えている。

また、肌の色も生き生きとした色を使って、黒という無を意味する色から、生が鮮やかに描かれている気がした。

 

カラヴァッジョといえば、その破天荒な人生も有名だが、殺人を犯した後、赦しを求め続けていたというのが印象的だった。

それを絵でも表現していて(今回展示のなかった『ゴリアテの首を持つダヴィデ』も、斬首された首が自画像で改悛を示して恩赦を嘆願したとか)、こんなにめちゃくちゃなことをしておきながら、ずっと赦しを求め続けるという、カラヴァッジョの矛盾した生き方が興味深かった。

 

とりあえず、大満足な展覧会だった。

印象的だった作品

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ『リュート弾き』

正直、こちらのモデルは全然自分の好みではなくて、カラヴァッジョがあんまり好きではなかった理由に入ってしまうが、人間の肌の描き方はすごいなと思う。

なめらかなのはもちろん、肌の温かさを感じられるのがすごい。

何よりも手の形がちょっと艶めかしくて、きれいなのが好きだった。

ただ左側の静物が、正直に言うとあんまうまくないな…と。ちょっとフェイクっぽく見える。この前に展示していた静物画もそんなに感動しなかったので、やはりカラヴァッジョは人物画の方がいいなと思った。

 

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ラツィオ・ローミ・ジェンティレスキ『聖母子(イエスを待ち受ける悲劇を感じとる聖母)』

カラヴァッジェスキのジェンティレスキの作品。

正直、イエス様の顔がめちゃくちゃ不細工だけれども、マリア様を含めた構図と光の使い方が好きだった。

他のカラヴァッジェスキに比べて、色彩を豊かに使っているのも、よりカラヴァッジョっぽかった。

それでいてマリア様の顔が、カラヴァッジョよりも古典的な雰囲気な気がして、特徴付いているのかなと思った。

 

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ『悲嘆に暮れるマグダラのマリア

本日のBestで迷うくらい良かった。

マグダラのマリアの肩が震えているんじゃないかと思うくらいのリアルさ。

ポーズが自然だし、そこまで光と影がドラマチックではない上、珍しく服が中間色なのが功を為したのか、ドラマの中の人物というよりも、目の前にいる人物のように感じられた。

これは、あまりに生々しくて受け取り拒否された『聖母の死』に出てくる、マグダラのマリアの習作だということだが、これだけで見事な作品だなと、何度も戻ってしまった。

(上の絵の左側が白っぽいのはスキャンのせいで、実際は他と同じ明度)

 

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジ『執筆する聖ヒエロニムス』

本日のBest。非常に分かりやすい、単純な画面構成ではあるけれども、それだからこそ説得力のある強い作品になっていると思う。

光と影、赤色となかなかドラマチックな構成の中、聖ヒエロニムスの柔らかい頭髪と髭、思慮深そうな皺や眼差しがコントラストとなって、神への情熱を抱きつつも静謐な雰囲気を醸し出している。

横着してチラシから切り取った絵なので分かりにくいが、ペンが真っ白に描かれていて強い存在感を出している。また、聖ヒエロニムスの右目らへんに小さくハイライトが入っていて、彼の目の輝きが演出されているよう。

ただドラマチックなだけではなく、その中に人物の情熱を感じられる、本当にすごい作品だと思う。

 

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ『聖セバスティアヌス』

多くの聖セバスティアンの作品は、複数の矢を受け、天を仰いでいるのに対して、矢は一本だし、その一本の矢を見て苦痛に顔を歪ませているのが、ものすごくリアル。

肌の色も生々しいくらいリアルで、痛みのためか顔が少し赤いのもリアルを通り越して、少々艶めかしい。

 

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ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ『法悦のマグダラのマリア

本展覧会の目玉。何とも言えない表情をしている。

右上に荊の十字架が描かれているそうだが、遠くから見ても全然分からないし、近づくと光で何も見えなくなってしまう。

半眼で半開きの口、と、元は娼婦だったマグダラのマリアだからか?という艶めかしさ。下唇が青味がかかっていて死んでしまったような色だけれども、上唇には赤味がさしているし、肌の色も全体的には青白いけれども肩の部分は赤っぽかったりと、生と死を超越したような不思議な雰囲気を感じる。

 

不思議な魅力を感じる絵だけれども、マグダラのマリアのお腹がぽこっとしてて、そればかりが気になって気になってしょうがなかった…

 

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ジョゼぺ・デ・リベーラ『洗礼者聖ヨハネの首』

実はこちらも本日のBestの候補に入れていた作品。やっぱりカラヴァッジョ展だしと思って外したけれども。

ヨハネの唇が軽く結ばれているところが、安らかな気持ちで生涯を閉じたのかなと思わせられる。眉毛や目の感じにも、聖人らしい思慮深さや高潔な雰囲気が感じられる。

そこに、首の部分にビビットな赤が少し入っていたり、手前の布に赤が入っていたりと、血の赤をほぼ唯一の色味にしているところも、この作品の物語性を強めているような気がした。

静物画のような静止した空間の中に、血やナイフの切っ先より、この前に起きた出来事が動的に思い起こさせる。

 

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ジョヴァンニ・フランチェスコ・グエリエーリ『ロトと娘たち』

割と大きな作品で、それだけにこの光を使った演出がより一層ドラマチックに、すごい迫力に見えた。

カラヴァッジョたちの多くに見られる、光源の不明さはなく、ろうそくが置かれているのも臨場感に一役かっているのだろう(実際にはろうそくだけでは、ここまで明るくならないとは思うけど…)

映画のワンシーンを切り取ったような作品で結構好き。

チラシと作品一覧

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