奇想の系譜展@東京都美術館
概要
訪問した日:2019/2/23
★★★★☆
今回のBest:鶏図押絵貼屛風
総評
学生の頃に読んだ「奇想の系譜」をベースにしたものと知って、楽しみにしていた展覧会。
と言いつつ、本の内容をすっかり忘れてしまったので再読して、準備万端に。
ただ再読してみて、そんなに面白い!と感激するほどの本でなかったことを思い出し(偉そうでスミマセン)、ちょっと期待値が下がってしまった。
が…めっちゃ良かった!!!!!
逆に期待値が下がったのが良かったのか、堪能しまくりました。
絶対に混むと見込んで、9時半の開始とともに入ろう!と意気込んでいたものの、例によって例のごとく遅れ、9時45分頃に入る。
チケットはまったく並ばずに購入できたものの、中は結構な混雑具合。
とはいえ、絵巻などかぶりつきで見れた。
ただ、もう一度見ようと戻って行ったら、ものすごい人になっていたので10時半くらいから混み具合がピークに近づいてきていたのかも(本当のピークはどんなもんか知りませんが)。
ちょこちょこ既に観たことある作品はあったけれども、初お目見えの作品もあって、なかなかの見応え。
因みに、「奇想の系譜」は、当時知られていなかった画家を世に知らしめた、という点においては非常に価値のある本だと思うが、読んで展覧会に行くのと、読まないで行くのとで劇的に違うか、と言われるとそうでもない。なので、未読で行っても何の損はないと思う(後から読んで、「読んで行けばもっと楽しめたのに~」と思うということはないという意味で、損はない)。
基本的にひねくれものなので、あまりにブームだったりすると引いてしまうのだが、若冲は別枠で、やっぱり好き!!!となった。
あと、芦雪は辻惟雄氏の評価はそこまで高くなかったが(奇想という点で?)、やっぱり好きだな~
思わず図録を買ってしまった。ついでにトートバックも…
ということで、以下写真は、図録をスキャンしたものです。適当に加工してるので、本の折り目とかそのままで変な影とか入っていますが悪しからず~
印象的な作品
THE若冲!な作品。鶏の細かさに加え、紫陽花という細かいものが密集している花、という組み合わせが、観る者を圧倒させる。でもギラギラした感じがなく、圧倒はされても圧迫されない感じ。
多分、余白とのバランスがいいんだろうな。
虎が猫並みに可愛いことよ(確か、本でもそんなこと書いてあった)
よく見たら毛一本一本描きこまれていて、これまた細かい!!!
博物画のような緻密さではあるけれども、よく見ると瓜の蔓などがデザイン的。緻密だけれどもリアルではない、これが若冲の魅力なのかな、と思う。
一転して、緻密から対極な作品。像のしっぽのくりんとしたところと、鯨の波のあぶくのくるくるした感じが呼応している。
象と鯨って、陸で一番大きな哺乳類と、海で一番大きな哺乳類の組み合わせ?
今回のベスト!展示室入ってすぐのところにあったのだが、魅了されて長時間佇んでしまった。
展覧会初お目見え作品らしい。
鶏の形・動きを熟知しつつ、筆を自在に扱っている感じ。それこそ筆で遊んでいる感じ。
極めたってこういうことなんだな、と思った。
曽我蕭白
単純にかわいい!その一言に限る!特に正面向いている獅子が可愛い。
どこかしら困った顔をした愛嬌のある顔。
絵本の挿絵みたいな、ファンタジーを感じる作品。
虹と、それに呼応するような同じ形の雲なのか、山なのか分からない、ぽこぽこしたもの。これらの要素でファンタジーな雰囲気を出していて、のどかな富士山の裾野の世界を描いている。
よく見ると、富士山のふもとはこんなんじゃないだろ、とつっこみたくなるけれども、それを全部許してしまう雰囲気を醸し出している。
山水画や洛中洛外図のような風景を描いたものには霞がつきものなのは分かる。でもこの絵は、霞らしきものが、全部横線で表現されていて、こんなのは初めて見た気がする。
横線も定規で引いたに違いないというくらい几帳面な線。
ふわふわした霞が醸し出す夢心地な雰囲気はなく、どことなく固い印象を得る。
長沢蘆雪
本当は1対の龍だけれども、特にこちらの龍が良かった。
龍というより蛟っぽい気もするが、形がかっこいい。それでいて顔が可愛い。最高。
先日行った河鍋暁斎や、小原古邨とかに出てくる猿はとても可愛くて、『可愛いーー!!!』となりながらも、現実の猿でこんな可愛い猿いるか…?と懐疑的だったのだが、こちらの猿は、現実の猿っぽいコミカルさ、ふてぶてしさも入って、「いそう!」となった。
色んな表情の猿がいて、ずっと見てて飽きない。
「白象黒牛図屏風」(うまくスキャンできなかったので…)
以前、観たことあったけれども、やっぱり目を引く、インパクト大。
何よりも黒牛のそばにいる犬がべらぼうに可愛い!!!!文句なく可愛い!!!あざとさも感じないではないけれども、とりあえず可愛い!!!
さらさらと描かれた絵だからこそ、蘆雪の画力が分かる。
若冲と同じく、筆を自由自在に、自分の想いのままに使いこなしている感が、羨望も入り混じったまなざしで見てしまう。
今回のベストにしようかと迷った作品。正面に立った途端、鳥肌がたった。
つい最近、坂東眞砂子作「山姥」を読んだところだったので、余計に、山姥の醜いおどろおどろしい顔の裏にある、哀愁を感じた。
「山中常盤物語絵巻 第四巻」
「堀江物語絵巻」
(スキャンはとてもじゃないけどできなかったので割愛)
なめるように見た2作品。これの違う巻が出るらしいので後期も見たいと思うくらい、見ごたえある。
色の美しさもさりながら、ディテール好きとしては何時間も飽きずに見れるくらいの、ディテールの宝庫。
こんな作品を持てるって何て贅沢!と思ってしまった。
この展覧会で何が欲しい?という妄想を膨らますとしたら、間違いなくこれが欲しい。
日本画で、こんなにも物語のワンシーン感がすごい作品、観たことがないと思う。
貴人の品のある佇まいも素晴らしいし、扉をたたいている姿で物語性を感じるのがすごいと思った。
スキャンがうまくできなかったので一部抜粋。
海が布みたいに切れ目があって、そこから龍の体が見えているのが独創的。現実的にはあり得ないことだけれども、波のぶつかっている様も含め、妙な説得力がある。絵の図柄として完成されているからか。
白隠慧鶴
ものすごく大きな作品で、力強い。下描き線が残っているのだが、あまり気にならないくらいの、力強い線。
見ているだけでほっこりと幸せな気持ちになる絵。蛤蜊だけではなく、周りも色んな魚介類が囲んでいて、皆がにこにこしているのが、こちらもにこにこしてしまう。
鈴木其一
割と好きな画家のはずが、今回はそんなヒットするものがなかった。
真ん中に凄惨なシーンが描かれているだけで、ぎょっと目を引くが、迫力も動きもあってさすが、という感じ。横にいる目をつむった人物が、高貴な雰囲気を漂わせて、只者ではない感じがするのも、表現力がすごい。
このストーリーとしては、宿に泊まらせてはその者を殺し金品を奪っていた老婆。あるとき、少年の姿に変えた観音様が訪れる。いつも通り殺そうとした老婆に、その娘が取りすがる、というシーン。
歌川国芳は、3枚続きの浮世絵など迫力のある作品が多いが、残念ながら他の絵画の中で展示されると、持ち味の迫力があまり出てきていなかった。最初に国芳の展示があったら、まだよかったかもしれないけれども、やはり浮世絵は浮世絵だけで展示した方がいい気がした。
さいごに
作品リストとちらしを貼り付けておく;